Random thoughts in Japanese. All optinions are my own.

2023/02/28 (Tue.)

  • 講義2日目。今日はproper lossの話が中心だったので、自分の理解もそこまで怪しい点は多くないためか、まあまあスムーズに講義できた。2日目になって慣れてきつつあるのもある。興味を持ってくれたPhDの学生が講義後に質問に来て議論してくれたりするのは本当に嬉しい。講義をやる身になると、またこうやっていろいろな世界が見えてくるものだ。
  • 一週間以上フランス語漬けの環境にいると、フランス語素人ながらに聞き取れる・読み取れる単語が少しずつ出てくる。例えば、禁煙の標識を眺めていたのでタバコや燻製を意味する「fumer」がわかるし、グルテンフリーやアルコールフリーの文脈で使われる「sans」はまさにサンセリフと同じで存在の否定を表す単語だったり、ランダムが「アレアトリック(aléatoire)」、集めることはもうそのまま「ensemble」だったり、ラテン語、英語、日本に入ってきた外来語の知識を総動員すると僅かながらではあるがわかる部分がある。暗号解読みたいで楽しい。これは幾多の言語の中でもフランス語だからまだ可能であるとも言える。こういうことをしていると、ますますフランス語が少しでいいからできるようになりたい気持ちが湧いてくる。
  • フランスに来てからもしかすると初めて人とディナーを一緒にせず、移動中でもない夜を過ごしている。スーパー(Monoprix)でお惣菜をチーズとビールを買って、下宿でのんびりと晩酌をしている。寝るまでまだ何時間も余裕がある。こんな日が今まで一週間全くなかったのか。

2023/02/27 (Mon.)

  • 講義1日目。前半の未定乗数法の話し方が下手すぎて本当に申し訳なかったが、後半のproper lossの話に入ってからはだいぶマシに喋れた気はする。ただ、どちらにしても途中から疲れてきて英語もしどろもどろになってきてしまい、2時間喋り終わった後はヘトヘトだった。今更改めて言うことでもないが、講義をし続けている先生にはもう尊敬の念しかない。
  • 講義内容の分量は当初見積もっていた速さほぼそのままで喋れた。その点だけは自分でも評価できる。
  • 講義が終わった後、そのまま山根さんとq-entropyのディスカッションに突入。全部でほぼノンストップで4時間くらい喋ったので流石にもう気力もギリギリ、そしてそもそも昨日ミュンヘンから帰ってきたばかりなのにここまで成し遂げたのには我ながらにわかに信じられないが、自分が過去に悩んだ吸収元のないq-代数の構造を計算上うまく回避するアイデアが出てきて、これはひょっとしたらうまくいくかもしれないし、うまくいけば相当面白そうな話になりそうな予感がした。本当にうまくいくアイデアなのかどうか、疲れすぎていて正確に判定することが最早できないけれども、興味はかなりある。フランスにいる間に何かしらのアイデアが生えたら望外の成果である。

2023/02/26 (Sun.)

  • ミュンヘンの旅行計画を立てるときに特に何も考えずに「とりあえずノイシュバンシュタイン城に行ってみるか」くらいのテンションでチケットを予約していたのだが、ちょうど今週末はドイツに寒波が来て、特に南ドイツのアルプス付近は積雪がかなりあって、本当に今日行けるのか不安だった。結果は想像以上にスムーズで、むしろ朝一番に向かったからこそ、人がまだ少なくて雪もまだ綺麗な状態で城の風景を堪能できたので、運が良かった。
  • それにしても、城を見終わった後に13時半ころからFüssenを出発して、Munchën Hbf、Munchën空港、CDG、Montparnasse、Rennesと、この一連の移動行程が地味に10時間もかかるのが大変だった。どこが特別遠いとかではないのだが単純に経由地が多い。トラブルなく下宿まで帰ってこれて、無事影響なく明日の仕事に向かうことができそうでほっとしている。さて、明日からが今回の出張の仕事の本番だ。

2023/02/25 (Sat.)

  • ミュンヘン観光1日目、Pinakothek、Lenbachhaus、Englischer Garten、Residenz、Marienplatzを回る。1日でここまで回れるものだな。Pinakothekを回っていたときに唐突に現代美術の方が見たくなって、その場で調べて近くにあったLenbachhausに行くことに決めたのだけれども、壁一面ゲルハルト・リヒターの写真で埋め尽くされた部屋があって、そこが本当にとてもよかった。昨夏に近美のリヒター展で『ビルケナウ』に圧倒されてからすっかり虜になってしまったが、こんなにも多視点な写真まで残しているのか。この多彩な視点が彼の芸術家としての下地を支えているのだろう。
  • 今回ミュンヘンに来た大きな目的として、夕方から野田さん、三河さんとビアハウスで会っていた。まさかミュンヘンで邂逅することになるとは。この二人、まるで喧嘩しているかのようにお互いの論点の穴をひたすらに突き続けて、それでも最終的には仲が良いのだから不思議なものだ。三人とも全く違う価値観から、大学とは、ジェンダーとは、家族とは、人類の行く末は(!!)、と他ではできない話をフランクにするので、刺激的である。これほどに喋り込んで、そして雪の降り始める夜のミュンヘンの街。これまた忘れられない一日ができてしまった。

2023/02/24 (Fri.)

  • 今日はようやくENSAIに行くことができた。といっても、今日は午前にオフィスの鍵をもらって建物の中を一通り見て回っただけ。ENSAIは現状はほぼ統計専攻のみの単科大学で、そのため学生も500人程度しかいないので、建物一つに講義棟と研究棟がすべて集約されている。物理的な距離からして学生と教員の距離が近そうな雰囲気があって良い。それと、往く人往く人から「レクチャー楽しみにしてるね」と言われるので、緊張感が高まってくる。それなりに準備はしたつもりではあるけれども、いかんせん講義の経験が全くないので心配である。振り切れて自分らしくやるしかないのだろうけれども。
  • 午後は週末のミュンヘン旅行に向けた移動。ミュンヘンは5年前にICML2018の帰りにトランジットに失敗して真夜中に街に放り出されて、大変な思いをしてホテルに行き、それから突貫でMarienplatzを観光してから帰るという、怒涛の半日を過ごした思い出があるので、再びミュンヘン空港の広場に降り立ったときには得も言われぬ懐かしさがこみ上げてきた。5年ぶりか。人生にそう何回も5年はない。思えば遠くまで来たものだ。

2023/02/23 (Thu.)

  • 大学の停電は今日復旧したらしいのだが、セントラルヒーティング文化なので建物が暖まるまで丸一日かかるらしい。そういうわけで、今日も主に下宿で仕事をしていた。夕方には山根さんの友人のフランス人とドイツ人とビアバーで飲んだ。なんでわざわざフランスまではるばる半日もかけて来たかと言われれば、海外の大学の研究者と直接議論するのが大事である一方、現地の人たちの日常会話に混ざる経験をするためにはやはりこの地まで来るしかないというのが大きい。しかし、もう少しばかりフランス語がわかるようになりたいものだが、人生の時間が限られていることを鑑みると、たぶん今世では達成できない望みなのだろう。
  • やはり感度分析をちゃんと知る必要があろうということで、福島「非線形最適化」の当該章を読み直している。福島をきちんと読みこむのは3年振り (2020/04/08)だろうか。感度分析自体がかなり高度な分野だと思われるので、福島ではあくまで一階の微分可能性などについて議論されるに留まっていて、個人的には高階の微分可能性について知見が欲しい気持ちはあるのだけれども、直感を養うにはやはり良い本である。

2023/02/22 (Wed.)

  • 着いて早々大学で不慮の停電が発生しているため、まだ大学に行けないので、下宿の周りを散歩したり街を眺めたりしながら仕事をしている。Rennesは街のサイズに対して車通りが少なくて快適。何より、いつスリに遭うかわからないので常に緊張感を保っていなければならないパリとは違って、のんびりと街を歩くことができるのが嬉しい。
  • 山根さんに教えてもらったBanerjee et al. (2005)を読んだ。条件付き期待値が最適解になる損失関数の必要十分条件がBregman divergenceであるという内容。散歩しながらふと思ったことなのだけれど、この論文ではBregman generatorがnon-smoothであることを許した証明をしているので、この必要十分性の証明はもしかするとproper lossの文脈に持っていくとSavageの定理のnon-smooth拡張になるのかも、と思った。今のところnon-smooth拡張の証明はあるのだろうか。ちゃんとした証明はまだないような気がしているけれども、もしSavageを含めてnon-smooth generatorが厳密には扱えていなくて、その拡張ができるのだとしたら、相当に意味のある研究になりそうではある。

2023/02/21 (Tue.)

  • Rennesに着いた。最近は飛行機にスリッパとネックピローをちゃんと持ち込むようになったので、14時間のフライトも案外それほど難なく耐えられるようになってきた。RER BでParisに向かう途中、昔よく通ったGare du Nord、Luxemborg、Denfert-Rochereauなどの駅のプラットフォームを眺めながら懐かしい気持ちになる。
  • Rennesに着いてすぐに山根さんと会った。当時柏駅でもうすぐフランスに出発する山根さんを送り出したのも、もう2年半前の夏だろうか。Rennesの街を練り歩きながら、2年半の間に積もった話をしながら、自分たちがこうしてRennesという想像もしなかった場所で再会して話している現実に驚く。こうやって数年経つと、本当に何があるかわからないものだ。

2023/02/20 (Mon.)

  • ついに渡航準備をずっと進めてきたフランスへいまから出発する。空路が変更されている影響でフライトが15時間にもわたるのでやや不安だが、3年5ヶ月振り (2019/09/25)に(!)ヨーロッパへ行くので、とてもワクワクしている。しかも、フランスはこれまで2回行っていてほとんどがParis(そしてLilleが少し)だったのだが、今回はRennesということで、行ったことがなく、しかもBretagneというフランスの華のような場所に滞在するということで、さらに少しディープな思い出になるのではないかという気がしている。
  • 羽田までの移動の途中に査読を2件、そして翻訳の仕事をやった。今日の仕事量は半端ではない。既に夜11時で、もう少し仕事をやりこんで飛行機で熟睡できるようにしようと思っていたが、さすがに単純作業でさえも頭が拒絶しはじめてきたので、そろそろにしてフランスに思いを馳せながら旅路につくとする。

2023/02/19 (Sun.)

  • 今週末は白眉合宿で、関西セミナーハウスにカンヅメだった。これだけ大規模な白眉のオフラインイベントは自分の着任後ははじめてで、名前は知っているものの直接話す機会に恵まれなかった諸先輩方や新任の13期の人たちと、夜通し(自分は1時半くらいでリタイアしたが、5時近くまで語り明かした人たちもいたらしい)議論し続けたのは本当に何にも変えがたい刺激的な体験だった。こんな経験は2019年のACT-Iの領域会議ぶりではないだろうか。
  • いくつも印象に残る場面があったのだが、同室だったPascalと社会「科学」的なアプローチの無力性について語ったことや、帰り道で大井さんと数学の証明とは、理解可能とは一体どういうことなのか語ったことなどはとりわけ印象深かった。分野の垣根も感じさせずにメタ的な視点から学問を語れる同僚たちがいて、語っていても許される白眉の場は改めて得難いものだと感じる。情報学の分野に閉じこもっていたとしたら周りでこんなことを話し合える人間はほとんどいない。
  • 村上『科学史・科学哲学入門』を読み終えた。フランスに渡航するまでに読み終えたいと思っていたので、一気に3日ほどで読んでしまった。高度に呪術的な科学だとか、キリスト教が強力なバックボーンとなって西洋近代科学が発展してきたメカニズムなど、そのあたりの話は納得感が大きいと同時に、逆に言えば自分でも散々読んで考えてきたことなので、あまり新しい情報がなかったと言えなくもない。そのため、僕個人として収穫があったのは、むしろ終盤あたりにかけて議論されていた「他人のこころが存在していて初めて規定される自分のこころ」という、こころの私秘性に対するアンチテーゼだったと思う。

2023/02/17 (Fri.)

  • 1ヶ月半ぶり (2022/12/22)に翻訳案件のミーティングとマネジメント業務をやった。締切に対する態度が煮えきらなくて、自分も社会性を保ちながら話すことについに耐えられなくなって、締切に対する心構えを問い質した。話している途中にしれっと締切をすり替えるし、締切に対する御託を並べるのだけは長けているし、聞いているこっちは気持ちがスッキリしない。仕事のクオリティを上げるのは重要だが、引き受けた以上はまず仕事を完遂させなければならない。それが無理なら「無理です、間に合いません」と言うのが筋で、どちらにも煮え切らない態度を取り続ける限りは全員が消耗戦を続けることになる。とりあえず今後は仕事をする相手を慎重に選ぼうという良い教訓にはなっている。

2023/02/16 (Thu.)

  • 3日でフランスでの講義資料を作成してみた。そもそも講義をスライドでするか板書でするか悩んだが、自分の訓練の機会と捉えて結局板書でやると腹を決めた。板書のプレゼンは全くやったことがなかったので、自分が学生時代に受けた講義のノートを引っ張り出してみたところ、1コマあたりA4ノートでせいぜい5ページ程度の量が限界のように見えた。実際に講義ノートを作ってみるとあっという間に10数ページになって、しかもこれでも喋りたいことは全く入りきっていないので、いかにプレゼンで喋れる分量が限られているかが身を持って実感できる。今日の午後は試しに1時間ほど板書を書くシミュレーションもしてみた。A4ノート1ページはだいたいきれいに黒板2枚分になるらしい。ようやく講義の時間スケールがなんとなくわかりつつある。
  • 講義準備もまあまあ心理的負担になっていたが、出口はほんのりと見えてきたので幾分か気は楽になった。ここまでの準備時間はだいたい15時間くらいだろうか。

2023/02/14 (Tue.)

  • あまりにも精根尽き果てて、2日ほど横になって過ごしていた。全てをやりきって横になっていると自分の仕事の水準が本当に満足できるものではなかった、とか、こんなに横にならなければならないほど大事な仕事だったのか、などと考えこんでしまう節々もあったが、今日にもなると段々とメンタルが回復してきた。ともあれ十分な睡眠と休息を取るのは他には代えられないことだ。
  • さて、論文投稿直前に自分の解析力が足りなくてできなかったregretの下限の解析だが、ふと感度分析のことをおぼろげに思い出して教科書をめくり始めたらこれが自分に必要な道具だったらしいことがわかってきた。曰く、感度分析はパラメータ付き最適化問題の最適解のパラメータに関する微分可能性などの解析を行う分野であるとのことだから、まさにこれが役に立ちそう。正則性条件をおいておくと、例えばBonnans & ShapiroのProposition 4.12をinformalに読み下すと、変分問題の微分はinfと微分が交換可能である、と解釈できる。Bonnans & Shapiroの序盤には凸解析や関数解析の背景もあって自分に不足している基礎の補強になりそうだし、頑張って春休みに時間を絞り出して通読してみる価値はありそうだ。

2023/02/11 (Sat.)

  • JJRSのライブを終えた!11月末 (2022/11/28)に久しぶりにサックスを触って、なんとか6曲吹き通せるところまでリハビリした。今回は何よりもMy Centennialのソロが当初全く吹ける気がしなかったけれど、1ヶ月間(論文の締切を多数抱えている横で)個人練をし続けて一応本番で演奏できるところまでは持ってこれた。最大の懸念はロストすることだったけれど、その心配は杞憂に終わった。もう2週間あればダイナミクスなどの表現をより付けられたと思うけれど、何人かに良い音だったと言ってもらえて(お世辞だったとしても)嬉しかった。
  • 東京に日帰りでライブ。意外とできるものだった。

2023/02/10 (Fri.)

  • 一日ひたすら(今までサボっていた)個別の計算をやり続けて、なんとか夕方には計算し終えて論文を投稿した。計算し続けていたのでどっと疲れた。昨晩寝る前は間に合うかどうか若干不安だったので、一応間に合って胸をなでおろしている。
  • 今回の投稿の総括: 元々の着想は1年半前にstrongly proper lossを知ったとき (2021/06/15)に「strongly proper lossとstrictly proper lossのクラスの差集合は何か」に興味を持ったことがキッカケで、本当はこのときの「strict propernessの仮定の下ではsqrt regret rateが最適」を示したかったけれども、そこまでは至れなかったのは惜しい。半年前に少し0-1 regret rateの計算をした (2022/06/20)後、10月上旬 (2022/10/06)には主定理であるmodulus of convexityを使ったregret boundの導出には到達した。その後は他の仕事に追われてなかなか細かいところを詰め切る時間がなく、締切直前にバタバタしてしまったのは悔しい。けれども内容としてはまあ結構面白いものになったんじゃないかと思う。
  • さて、まだまだこの周辺で調べたいことは残っている。手元のノートで計算して成仏していない話だけでも、regret “lower” bound、upper rateのsqrt下界、0-1 regret rateの階層構造(そしてstrictly proper lossでもnearly linear rateの達成が可能であること)あたりはパッと思いつく。Multiclassもやりたい。それと、個人的にはLindenstraussの双対公式を導いた (2022/10/15)のに結局論文に入らなかったのがかなりもどかしい。これは数理的にはかなりささるので、ぜひとも何らかの形で次の研究にしたい。

2023/02/09 (Thu.)

  • 何度も確認して主定理の証明はほぼ問題ない(そんなに難しいことはやっていないから)と思うのだが、サブの主張の証明が読めば読むほど穴が見つかる。うっかり閉集合上で関数を定義しているがゆえに陰関数定理の適用条件を満たしていなかったり、開集合上で関数を定義し直すと陰関数定理で構成した陽関数を境界にうまく飛ばせなくてl’Hôpitalの定理が適用できなかったり、などなど。学生さんとお昼ごはんを食べながら雑談していると、制約なし最適化の場合は開集合上で考えればよいのに制約付き最適化の場合は閉集合を考えざるを得なくなり、支持関数を使って劣勾配を適用するしかなさそう、という話にもなった。いずれにしても、l’Hôpitalが適用できないとなると主張の証明上は痛い。たぶん一般の主張するのはかなり難しそうなので、おそらく個別ケースに関してl’Hôpitalを使って計算するくらいが限界だろうなあ。結局締切当日の明日にかけて修正するしかなさそうだ。

2023/02/08 (Wed.)

  • 結局、誰かを傷つけるかもしれないという覚悟がなければ誰を幸せにすることもできない。一昨日からそういうことを延々と考え続けてしまっている。
  • 数学力が足りない。微分解析をするとなると多くのケースでは微分を定義するために開集合を考える必要があるけれども、開集合はどうにも自分には扱いづらい。陰関数定理も開集合をとらなければ微分を通じた陰関数の定義ができない。初等解析を学んでからもう10年も経つのにこんなことにもまだ躓いているのは情けないけれども、半年前の自分だったらそもそも気づかずに素通りしていただろうし、気づくようになっただけでもマシであると思うことにする。

2023/02/07 (Tue.)

  • 久しぶりに朝7時まで熟睡した気がする。年明けぶりくらいだろうか。ここ1ヶ月本当に落ち着かなかった。昨日の夕方にとりあえずCOLTの論文は一度提出したから(気持ちの上ではそんなに変わった気がしなかったけれども)肩の荷が下りたのかもしれない。
  • 日曜のバンド練の後にバンドの人と話していたときに、なんで研究者をやっているのかと聞かれて「自分に大きな裁量があるから他人が理由で仕事上失敗することが少ないから」といった感じのことを答えたけれども、数日経って後から自分の中で反芻してしまっている。裏を返せば他人を信頼せずに関わるのを避けてしまっていることになる。それはある意味では他者侮蔑的ではないだろうか。喋った当初は当然自分の中ではそんな意識は毛頭なかったけれども、そうした言語の端々から滲み出るニュアンスから自分の無意識を抉り出すと、例えば「たくさん仕事をした方がエラい」といったメリトクラシー的思想が見え隠れしているような気がして、嫌な気持ちになる。
  • 同僚と二人で飲みに行って今度のイベントの打ち合わせをしつつ、ちょっとだけ酒の勢いに乗って「ゼロサムゲームをどう脱出するか」(2023/02/01)みたいな最近考えている話をついしてしまったら、思った以上に共感されなくて場が冷えてしまった。「そんなこと考えたこともなかった」みたいな反応をされてしまって、自分はどうしたら良いのかわからなくて怖くなってしまった。別に全く相手に悪気はなくて単に考えたこともない思想に遭遇して呆然としている様子に近かったけれども、なんというか、共感されないことは恐怖なんだということと、自分は共感依存度が高いんだろうなと思った。八方美人であり続けるのはおそらく誰の得にもならない以上、共感を求める気持ちをどこかで断ち切らなければならない。自分にはその精神力が決定的に欠如している。

2023/02/06 (Mon.)

  • 京都に数日戻ってきた後輩が突然訪ねてきたのでランチにいった。彼の近況を聞いているうちに先月のSOMAの講演 (2023/01/06)になって、あのときの講演は実は聴衆にとっては追いつくのがかなり大変だったというフィードバックをもらって、表面上は平静を保とうとしていたけれども内心は愕然とせざるを得なかった。しかし、言われてみればあのときは2時間という講演時間のノルマをやり切った達成感のほうが大きすぎて、実際のところ自分の喋り方やスライドの回すスピードは急ぎ足だったという自覚は蘇ってきた。さらに、元々proper loss自体も前提知識を持っていない人にとっては動機がわかりづらい話ではある。そういう細かい点のケアが足りずに自分の話したいことをマシンガンで話してしまっていたのかと思うと、かなり申し訳ない気持ちになる。
  • 神戸で議論した「教育とは何か」(2023/01/21)という話も脳裏をよぎる。そもそも全員が求めているものを全て過不足なく満たすのは無理である以上、誰かのニーズは捨てざるを得ない。だから、教育やコミュニケーションですべきことは、自分がスコープとして定めた層にはせめて十分な情報を届けることだと思う。SOMAの講演では果たしてそれができていたのか。もう学生ですらない以上、受動的には誰からもフィードバックを与えられない。内省的に自己批判をし続けるしかない。自分一人で勝手に気持ちよくなるのを大衆の前でやるのは最悪だ。
  • そんなことを考えていると、教育やコミュニケーションのコストは果てしなく膨大なものに思えてきて、全くやりたい気持ちがしなくなる。相手にとって伝わっているのかどうか、理想を言えば徹底した奉仕的精神が必要なのではないかと思う。しかしそれは一個人に求めるにしてはあまりにも重責だ。ふと2年前にある研究室で講演したときの日記 (2021/03/26)を見てしまったが、全く同じことを書いている。2年経っても、何度考えても、この堂々巡りに陥ってしまう。

2023/02/05 (Sun.)

  • 今回はベルクラシック東京というところに泊まっていた。普通のビジネスホテルよりは多少お値が張るけれども、そのおかげで機能も一昨日も快適に休めた。インドに行ったとき (2022/12/12)のホテルもお世辞にも良い場所とは言えなかったけれども、そういう宿を経験しているからこそ、衣食住のありがたさがわかる。
  • 昨日書き上げた論文、一度書き上げるととても愛着が湧いてしまって、今朝もバンド練に出かけるまでの時間で本当は別のことをしようと思っていたのに、ついつい論文を読み返して満足感に浸りながら、細かい修正をしたりしていた。自分の頑張りが目に見える形になると、じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
  • ボードリヤールを読み終えた。最近読んでいる本はどれもボリューミーだけれども、読んでよかったと思える本が多い。去年は河合 (2022/05/29)井筒 (2022/08/06)今西 (2022/09/16)など、日本の思想家たちの本に触発される機会が多かったが、ボードリヤールはオルテガ (2021/09/15)ぶりだろうか、西側の思想家として大きなショックを与えてくれたかもしれない。最終章につれてますますボルテージが上がっていき、「知識人によって『病める社会』が生産され、そして消費されていく」という一節はオルテガ同様に強烈な知識人批判になっており、頭を殴られたような心持ちになった。手元に印象的なフレーズのメモをとっているので、近いうちに本の内容を踏まえて考えたことを文章としてまとめる時間を作りたい。

2023/02/04 (Sat.)

  • 疲労が蓄積しすぎていて、今日は家族と会うだけしか予定がないのがかえって疲労感を強く感じてしまった。まぶたが常時重い。眠いのもあるけれど眼精疲労の影響が大きそう。親と話をしながら論文のイントロを書き上げてページ制限を満たした。週明けは定理の証明をもう一度細心の注意を払いながら検証しつつ、論理構成のブラッシュアップをするだけ。流石に間に合うだろう。
  • 今週の東京滞在はバンド練を見越してスタジオの近くにホテルをとって、夜に個人練をしてからすぐにホテルに戻れるように見計らった。ソロがだいぶ安定してきた。BPM240ならかなり余裕を持って吹ける。一ヶ月前の自分、いや、現役の頃の自分から見ても驚くことだろう。長い間サックスで速いパッセージが全然うまく吹けなくて悩んでいたのは、単純に反復練習が全く足りていなかった。ソロでもなんでもとにかくコピーしてパッセージを指が、体が覚えるまで吹く。話は暗譜してから。だってピアノだってそうやって練習していたじゃないか。なんでたったこれだけの練習法に辿り着かなかったのか、自分でも不思議なものだ。
  • ホテルに戻って、昨日話題に上がったVijay Iyerを浴室でかけながら入浴。ようやく一息つけた気がする。Vijay Iyerの音ってこんなに艶めかしかったのか。こんな聞き方をしたことがなかった。

2023/02/03 (Fri.)

  • 今日は学術変革の領域会議で、高津さんに6月の名古屋 (2022/06/27)ぶりに会う予定で、高津さんから自分のq-エントロピーの研究に関して話をしたいとメッセージをやりとりしていたので、それなら自分も、ということで積んであった高津さんの凹関数の階層構造論文を朝の新幹線の移動中に読んでいた。そうしたら、論文中で導入されているorder functionの概念がまさに自分が現在進行系で書いている論文で僕が発見してrate functionと名付けた関数と全く同じもので、order functionのsupをとって解析するところまで考え方が似ていて驚いた!自分自身もSimonenko indexから着想を得た (2022/11/28)ので、rate function自体が完全に新しい概念とは思っていなかったけれども、似たようなことを考えて研究している知り合いがいるというのはとても嬉しい。今日のコーヒーブレイクは大盛りあがりしそうだ。
  • 結果、一日中大盛りあがり(特に休憩時間が)な会になった。何度でも言うが、コロナの反動もあったのでオフラインの学会の議論の盛り上がり方は尋常ではない。高津さんに自分のq-エントロピー研究で盲点だった箇所を教えてもらい(Lagrangeの未定乗数法は局所解が内点のときにしか使えない!)、そしてorder functionが実は熱力学の方面で圧力とエネルギーの定義から導入されているといった文脈があることを聞いた。これだけでも自分一人では決して辿り着けない話。「order functionをいじっているとロピタルの定理を無限に使うよね」というあまりにもニッチなあるある話でも盛り上がった。
  • 会議が終わって駅まで戻る途中、今回はサックスを(立川駅でロッカーに預けることに失敗したので)背負ったまま移動していたので、何人かの人たちに尋ねられて、そして音楽トークが始まったりした。敢えて楽器を荷物で持っていくのはそういう意味ではアリかもしれない。今回は特に、横井さんと音楽の話ができたのが嬉しい。5年以上の意外と長い付き合いにもかかわらずほとんど研究の話しかしたことがなく、それでも横井さんがファンクやネオソウル系の音楽が好きなのはなんとなく感じていて、Mark GuilianaやNate Smith、Shai Maestroなどのアーティストの話で盛り上がった(ために周りの人を置いてけぼりにしてしまった)。音楽好き同士がお互いの趣味嗜好を知らない状態から腹の探り合いをする(僕は割と苦手だった)この会話方式が久しぶりすぎて、それだけでもノスタルジーを感じてしまった。
  • しかし6時前に起きて朝からはるばる統数研まで駆けつけて、一日領域会議に参加して長時間議論して、またホテルまで移動して、なかなか体力的には厳しい。明日たいした予定がないのが心底幸いである。

2023/02/02 (Thu.)

  • 2018年にはじめて参加してからほとんど毎年参加していたFIMIに今年は招待講演に誘われた。スケジュールを確認しようとホームページを確認したら、どうやらTengyu Maも招待されているらしくて驚いた。さすがにオンラインでの参加なのだろうか。自己教師あり学習の研究を少しした経験があってもTengyu Maのド専門の研究フィールドで議論できる自信はあまりないけれども、同じワークショップにいるというのはワクワクする。
  • さすがに疲労が蓄積している気がする。来週で論文の投稿とライブが終わるので、それでかなり楽になるはず。その後も大きい仕事はまだあるけれども。知り合いに「包さん仕事しすぎじゃないですか」と言われた。自分ではそんなに仕事をやっているつもりはなかったけれども、確かに客観視すると仕事量が多いのかもしれない、とふと思った。毎度毎度次はもう少し仕事を減らそう、と思い続けるのである。

2023/02/01 (Wed.)

  • ここ1、2週間はボードリヤールを読んでいる。「消費を強制され続ける生産社会」(ルイス・マンフォードの言葉も参照)「記号化による人間疎外」「消費という労働」などなど、自分が頭の中で悩んで考えていたことが既に切れ味の良い言葉で明文化されていて小気味好い。同時に、自分が長期的に解きたい問題のひとつとして「どのようにゼロサムゲームの消費社会を脱出するか」という問題が大きいと再確認させられる。この問題の難しいところは、いかに自分自身はゼロサムゲームに参画せずに(つまりマインドリソースも含めた他者のリソースを奪うことなく)ゼロサムゲームを脱するのか、という点にある。