Random thoughts in Japanese. All optinions are my own.

2021/02/28 (Sun.)

  • 熊野訳・ベルクソン「物質と記憶」を読み終えた。だいたい20日弱かかっただろうか。正直なところお世辞にも訳が良いとは言えないが、ぎりぎり読み通せた。ベルクソンの思想自体はかなり明晰で、いくつもはっとさせられる箇所があった。例えば、我々の(純粋)知覚は時間・空間方向に見ても離散的にしかすぎず(例えば視覚でも聴覚でもいいのだが、時空間的には人間の知覚には解像度の限界がある)、離散な知覚のスナップショットを連続に繋ぎ合わせているのは(教育によって獲得された)スヴニール(過去の経験)であると考えられる、とか、物体を認識するときに視覚で認知するのと触覚で認知するのとで全く質的には異なる純粋知覚が得られるにもかかわらず、それらが貼り合わされて全体としての統一的な知覚が作り上げられている、とか(モリヌークス問題にも関連する)。
  • 先週は初めて日本橋三越に、今日はほぼ初めて日本橋高島屋に行った。正確に言えば、日本橋高島屋は以前お昼ごはんのテイクアウト寿司を買いに行ったことはあるけれど。折角こんなに自宅から近いのだから、行けるうちにもっと行くべきだと強く思うと同時に、行っても残念ながら気軽に買い物ができる身分にないという悲しい現実もある。同じ日本橋地区でも、COREDOの方は出入りするのもだいぶ敷居が低くて居心地も幾分か良いのだけれど。
  • 研究室の後輩を誘ってオンラインボードゲーム会を開いてみた。普段セミナーではzoomでも顔を出さないし、お互いどんな人なのかもわからないし、ボードゲームみたいに体験を共有する場を設けて研究室の人と仲良くなっていくみたいなコミュニティデザインはできないだろうか。今日は集まった5人のうち、(僕は全員顔見知りだったけれど)お互いに初対面、初めて会話をする相手もいる中でまあまあ盛り上がったように思う。どのみち来年度も当面オフラインになる気配は見えないし、少しでも研究室の人と気軽に話せる雰囲気を作れるといいのだけれど。

2021/02/27 (Sat.)

  • 3週間ぶりの仲良しPh.D.座談会改め読書会。こういうのはちゃんと定期的にできると素敵だ。今日は友人が本を紹介する番で、川北「世界システム論講義」の紹介だった。18世紀以降の国家間の盛衰をヘゲモニー(覇権国家)、中核国家、周辺国家と階層分類し、どのような力学が働くことによってヘゲモニーの変遷が起こるかについて、そのシステムの理論らしい。曰く、注目すべきは「イノベーションのジレンマ」であり、つまり産業効率が良くなった国家には労働力の流入が起こり、結果として安価な労働力が入手可能となり資本家としては効率化を追求する必要がなくなり、社会効率が逆説的に低下してしまうこと。これがヘゲモニーの衰退の一つ大きな理由と考えられるようだ。17世紀のオランダしかり、19世紀の大英帝国しかり。
  • 今日は英語と中国語の練習をして、数理統計の教科書を少し読み進めて、ベルクソンを読んで、ランニングをするなど、盛り沢山な休日を過ごせている。数日前にも学部生の頃に比べてゆとりがあるように感じると思ったのだけれど、冷静に思い出すとあの頃はサークルで平日夜も休日も部室やスタジオに籠もってサックスを練習していたから、それは全く時間がなくなってしまうわけだ。あれはあれで貴重な時間だったけれど、戻りたいかといえばあまり戻りたくないし、今みたいに本を読んで少し体動かしてのんびりする休日のほうが断然性に合っている。

2021/02/25 (Thu.)

  • ミシガン滞在中に仲良くなった日本人の人と、一年越しに初のオンラインミーティングで研究のディスカッションをしてもらった。向こうは数理最適化が専門で、機械学習にも興味があってClayの授業も受けたりしていたらしく、こちらはこちらで最適化に興味があり、双方興味のマッチング。なんと数日前に博論の初稿を仕上げたばかりだそうで、しかし卒業後の職は決まっていた。まだしばらくミシガン近くにいるらしいので、COVID-19明けにアナーバーに行けた暁にはまたビールを飲みに行きたいものだ。
  • 最近の散歩やカフェはいつも入谷方面や浅草橋方面だったりして、思えば上野公園にほとんど行くことはなかったなと思い出し、考え事がてら上野公園を散歩した。芸大の入り口にひっそりと上島珈琲があって、そこは人も多くなくて落ち着いていて良い雰囲気だった。上京して当たり前になってはいるけれど、ふとした考え事をするときに上野公園みたいな場所に散歩に出かけられるのは何にも代え難い特権だと改めて思いながら、ぼんやりと歩いていた。実家のまわりもそうだし、郊外都市だと自然に溢れるわけでもなく変に閑散とした町並みが続いていて、特に散歩に出かけようと気持ちにもならないから。

2021/02/24 (Wed.)

  • 査読を終わらせたので、晴れ晴れと研究関連の考察に贅沢に時間を使っていた。敵対的ロバスト最適化分布ロバスト最適化の比較を行っていた。どちらも最悪ケースの最適化が正則化に還元されているのが面白いのだが、アイデアとしては不確実性集合に対するsupがパラメータの双対ノルムを誘導する点ではないだろうか。結果的に双対ノルム正則化付きの目的関数に還元される。一見最悪ケース最適化と正則化にはギャップがあるように感じられるけど、正則化ないしL2ノルムが双対ノルム(さらに言えば作用素ノルム)だと思えば、正則化も「ある意味での最悪ケース」を考慮していると見なすこともできるわけだ。
  • はじめての就活、はじめてのお祈りメールを頂いた。好き勝手に喋りすぎた感じがあったり、研究所のマッチングがうまくいっていなかったり、心の奥底で第一志望ではないことが見え透いていたあたりが原因だろうか。思っていたよりあっさりと落ちてしまったので、少し反省しなければ不味い気がする。他に受けている場所は結果が数カ月後になってしまうので、どうしたものか。

2021/02/22 (Mon.)

  • 心を無にして査読6本目(/7)を終了。あと1本。
  • こうなる未来は薄々見えていた気はするけれど、研究に着手することなく2月の最終週に突入。代わりに査読やら測度論の勉強やらは進んだけれど、無理にでも時間を作らなければいつまで経っても研究が始まらない。明日で査読をひとまず終わらせられると思えば、今週は他に大きな用事がないのできっと時間が取れるはず。だと思いたい。

2021/02/21 (Sun.)

  • 卒業して帰国する留学生を見送りに、こんな状況下ではあるのだけれどささやかな送迎会をした。彼はとても良い人だったので(それゆえに研究の上で悩んでいたのは見ていてやりきれなかったのだけれど)二年間思い返せばとても気持ちのいいコミュニケーションをさせてもらったし、これからも韓国に遊びに行く機会を無理矢理にでも作りたい。
  • その後はからずも同僚とすっかり研究室や機械学習の研究コミュニティについて5時間も話し込んでしまった。年末の京都ぶりだ。まあ研究室運営に関しても研究コミュニティに関しても思うところは本当にたくさんある。
  • あまり具体的に書きすぎるとマズイ気がしないでもないので適当にぼかすけれど、オーサーシップは適切に貢献を反映すべきだよねとか、(正直客観的には面白くもないレベルまで)研究アイデアを小分けにして論文数を稼ぐのとか研究倫理としてどうなのとか、「遺伝的アルゴリズム的な」学生教育のスタイルってどうなんですかとか、まあ言い始めると言いたいことはたくさんある。一つ確実に言えるのは、自分がこのコミュニティを変えるのは費用対効果が悪すぎるし、そこまでする義理もないので、遠くない将来にすっと離れるでしょう、ということだ。
  • アカデミア特有の問題もあるし、おそらく他のコミュニティでも普遍的に偏在する問題もあるだろうし、いずれにせよ幸か不幸かこういう経験を今のうちに積めたのと、こういう考えを気兼ねなくシェアできる志を同じにする同僚がいたことに対して感謝するしかない。こういう理由もあって、やはり最近はコミュニティとかインセンティブデザインの方向性に興味があるし、学ばなければならないと強く感じる。

2021/02/19 (Fri.)

  • 前から少し楽しみにしていた平原さんの講演を聞いた。これまで領域会議などで何回か大枠の話は聞いていたけれど、今日はブラックボックス帰着とは何か、平均時計算量とは何か、Heuristicaなどの世界クラスとは何か、といったかなり踏み込んだ話までたっぷり1時間半聞くことができた。これほどまでに理論的な研究なのに、イントロの喋り方が聞いてて高揚感を掻き立てるものなので、後半の難しい内容も食いつくように聞きたくなってしまう。研究の内容もさながら講演自体まで、学ぶべきことが本当に多い。たった2年上の先輩なわけだけれど、2年経ってあの境地に立てるのかといえば全く自信がない。

2021/02/18 (Thu.)

  • 査読3本目(/6)を終了、と思ったら予告なく1本新しく割り当てられていた。査読1本終わらせるのに相当なエネルギーが必要な分、疲労感がどっと押し寄せる。
  • 久しぶりに(精神不調というわけではないけれど)ストレスに耐えられなくなったので、パンケーキを食べにカフェに来てストレスを発散した。査読をなんとか1本終わらせた後に吸う外の空気はどことなく新鮮だ。
  • 先週再開した測度論の勉強が、いままではルベーグ積分の定義と性質の理解で精一杯だったのが、今回はなんとか測度の構成の理論まで辿り着けた。言葉だけは稀に耳にする「外測度」や「カラテオドリの拡張定理」を実際に拝む日がやってきた。拡張定理の証明を1行1行追う余裕は流石にないのだけれど、例えば測度の一意性の証明に用いるディンキン族や、拡張定理を使ってどのようにスティルチェス測度を構成するのか、雰囲気を眺めるだけでも十分に楽しい。来週に積測度まで追って、ℝd上のボレル集合族上のルベーグ測度の構成まで流れを眺めたい。こうした議論は大枠の流れを知っているかどうかだけでもだいぶ見通しが変わってくる。

2021/02/17 (Wed.)

  • 半年ぶりに先生と2時間のミーティングをした。今後の研究、博論の方向性、進路の話など、博士3年も見えてくるとすべき話はたくさんある。進路についてはアカデミックポジションの場合のキャリアパスについて色々とリアルな話を聞いたりした。自分の中で一応意識しておいたほうがよさそうなのは、大学の所謂「承継ポスト」と外部予算からできたその他のポストには、外見それほど違いがないように見えるけれど、内情としては承継ポストの経験がキャリアアップの上で非常に効いてくるということだった。まあ正直大学でキャリアアップしていくことに今の自分はそれほど価値を見出していなけれど、可能性としてなくはない話なので、頭の片隅に留めておくのは悪くないだろう。
  • 半年前の日記をついでに眺めると越後湯沢に一人旅行に行っていた時期だった。理由もなく温泉旅館で2日過ごすという体験はとても良かった。次行くなら文庫本だけ携えて宿に籠もるのも良い。3月に機会があればまた一人旅行に行きたいが、現状はどうなるかわからない。
  • もう少し振り返ると、アナーバーから帰ってきたのがもう一年前になる。まさかあれから一年間、一度も海外渡航できないとは夢にも思わなかった。一年経った今でもアナーバーでの生活情景はまだ鮮明に思い浮かべることができている。例えば毎日帰宅時に眺める夕暮れ時のBell Tower、ノースキャンパスの図書館、理学部7号館よりは圧倒的に採光が良いけれどどことなく圧迫感のあるEECSのオフィスビル、頻繁に食べていたギリシャヨーグルト、行きつけになったAshley's、などなど。居心地はそこそこ良い街で、少なくとも東京でこうやって毎日部屋に閉じこもっているのに比べたら安心して広々と羽を伸ばせる良い場所だった。知り合いがまだいるうちに再訪したい。卒業したらきっとみんな街を離れていくだろうし、数年内にきっと機会を見つけて行きたい。

2021/02/16 (Tue.)

  • 量子計算を研究している同期に研究を紹介してもらって、それにひたすら質問をする回をやった。数年前に授業も一応受けたにもかかわらず量子計算に対する理解がおおよそ全くなかったのだけれど、懇切丁寧に答えてもらえたおかげでだいぶ理解が深まった。まず量子ビットは基底の重ね合わせで表現されており、そのため古典ビットに比べて同時に多くの情報を1ビットに持つことができる。そして回路はユニタリ行列とHadmardゲートの組合せで作られ、出力は確率的にのみ定まる。ただしDeutsch-Joszaアルゴリズムのように、問題によっては出力が事実上決定的に決まるものもあり、そういう場合は実装が容易らしい。
  • 今日もひたすら効率よくタスクを消化することができた。査読はまだまだこれからだけど、いくつか重めのタスクを終えることができたのでようやく研究に取りかかれる気がする。

2021/02/15 (Mon.)

  • 久しぶりの雨。一日中家に籠もって、ひたすらタスクを消化した。測度論の勉強、本の校正作業、そしてついに始まった査読。今日は効率よく作業できて満足。
  • ベルクソン「物質と記憶」を数日前から読み始めた。岩波文庫版(熊野訳)を理由もなく買ったのだが、序盤から訳文が全然理解できなくて書評を眺めると、講談社文庫の訳本に圧倒的に軍配が上がっていた。それでも地道に50ページくらい読んでいると段々とベルクソンの課題意識が読みとけてきて、面白くなってきた。客体から知覚を導くのか、知覚から客体を導くのか、今のところはどちらかを前提として演繹推論するしかないようで、これをどのように解決してくのか(はたまた解決できずに終わるのか)興味深い。

2021/02/14 (Sun.)

  • 昨晩は都内でも震度4の地震が来た。ここ一年で覚えている限りで体感最も強かった地震だったと思う。揺れは1分近く続いていたような気がする。
  • 今日は散歩で巣鴨駅と東洋文庫ミュージアムに行ってきた。東洋文庫ミュージアムは前知識としてモリソン書庫しか知らずに行った。思っていたより書庫は小さかったけれど、なかなか本棚に囲まれる経験というのはないもので迫力はある。企画展は清王朝の歴史だったのだけれど、正直なところ内容はあまり頭に入ってこなかった。年初に江戸東京博物館に行ったときにも考えていたことなのだが、こういった歴史展示は博物館というメディアをどれくらい効率的に活用できているのだろう。純粋に歴史を知りたいのであれば、ものの本を手にとって舐めるように読んだほうがよっぽど頭に残る。博物館で来場者が地の文の説明を読むというのも不格好だし、展示スペースの関係上どうしても情報量が限られてしまう。古文書や服飾品の展示を見てもあまり印象に残るものではない。昨年末の科学コミュニケーション論の展示企画発表で失敗した腹いせというわけではないのだけれど、いまいち博物館の有用性がわからず、こういうことを考えるようになってしまった。

2021/02/12 (Fri.)

  • チック・コリアの訃報が流れてきた。思えば上京してきて初めて行ったライブが東京ジャズで、そのときのThe Vigilはとても好きだったし、COVID-19後はライブも行けていないので最後に行ったライブもミシガンで観たチック・コリアのライブになってしまった。そう考えると、自分にとってかなり大きなミュージシャンだった。ありがとう、チック・コリア。
  • いくつか締切が終わったと思っても、まだまだやるべきことが残っている。就活の面接も同時並行で受けているし、執筆業務が残っている。来週になれば査読も始まりそうな予感だし、折角の春休みなのできちんと数学を勉強する時間を確保しようとする。そうすると、やはり研究の時間が取れなくなってしまう。今週はワークショップにも参加したりしていて時間も取られていたので、来週になったらもう少し落ち着いて時間が取れると信じて。

2021/02/10 (Wed.)

  • 最近Steinwartの論文の精読の際に数学部分で躓いていたので、3回目くらいの測度論入門をやっている。とりあえず可測関数まで終わらせた。スティルチェス測度やボレル集合など、毎度定義と概念を忘れてしまう。今度こそボレル集合とか「測れる」感に関する直感が生えつつある気がする。
  • 雑務っぽいことが積もるとやる気が低減してしまう。どうせやらなければならないのだから、無心になってやり続けれればよいのだけれど。

2021/02/09 (Tue.)

  • 2日間ほどAI技術の応用時の法的・倫理的課題に関してディスカッションするワークショップに出ていた。以前だったらこういった類のイベントには興味を示さなかったけれど、少しくらいは自分ごとだと思って覗いてみたほうが良いのではないかと思って、少々重い腰を上げて参加してみた。
  • 参加した感想としては、やはり知らない分野の概念・キーワードだけでも耳にしておくと見えないものが見えるようになると感じた。例えばコリングリッジのジレンマとかアテンション・エコノミーとか、こういった概念は頭の片隅に置いておくだけでも面白い。また、日本の個人情報保護法やEUのGDPRなど、こういった法律の内容をざっくりとでも知れたのは良い機会だと思う。
  • 一方で、世の中には驚くほどの熱意を持ってこうした社会問題に取り組む人たちがいるのを目の当たりにした。その熱意に敬意を抱くと同時に、自分事ではない(いや、一市民である以上自分事ではあるのだけれど、例えばAI開発者ではない等といった意味で現場の人間ではないと言った方が正確か)のにもかかわらず自ら積極的に取り組む動機がどこにあるのか、不思議に感じた。僕も個人個人が意識を持つことは大切だと思って、それで自分も興味を持とうと心がけているけど、あくまで外発的動機づけなところがあるから。

2021/02/07 (Sun.)

  • 東京にいるうちに行きたいスポット巡り、年末年始の汐入公園、東京拘置所(2020年12月31日)、両国に引き続いて、宣言通り尾久駅〜旧岩淵水門〜赤羽駅を歩いた。トータルで14km、3時間半。ずっと岩淵水門周辺の新河岸川、荒川、隅田川の中洲を歩いてみたかったのがついに達成できた。右を見ても左を見ても川岸というのはとても新鮮な光景で、中洲の上の土手道は視界を遮るものがなく、埼玉川口?のタワーマンションが遠くに見える。日本広しといえど、こういう景色は関東平野ならではなのではないか。

2021/02/06 (Sat.)

  • 論文投稿も終えて一段落して、前から企画していた久しぶりの仲良しPh.D.座談会をやった。2020年7月15日のオンライン座談会、2020年11月10日の恵比寿会合ぶり。
  • 今回からは毎回担当者がラフにおすすめの本を紹介する読書会をやってみたら面白いのではないか、という話が出たので、今日は僕が三浦「弁証法とはどういう科学か」を紹介した。やはり読み終えたのが2回目だと、2ヶ月経っても相当記憶に残っている。「否定の否定」の法則だけ忘れていたのでそれだけ軽く復習したけれど、他の部分は概ね本を参照しなくてもそらで内容を説明できる。こうなると自らの血肉として本を吸収できたと実感することができて、とても嬉しい。読書に限らないけれど、これまで体験が一過性になりがちだったので、今回のように読んだ本が自分の中に定着した経験は自分の自信になる。
  • ふらふらと雑談していたら因果の話になり、面白い言説があったのでメモ。ヒュームによれば因果とは時空間的連接関係という風に定義されたわけだけれど、弁証法的に見ても対立物の相互浸透に照らし合わせて原因と結果とは相対的なものであり、因果自体が本質的な概念であるか疑問が残る。特に、時間というのがどのように生まれるかというと、元来ほとんどの物理法則は時間対称性がある中で、唯一エントロピー増大則のみが時間的不可逆性を持つ。なぜエントロピーが増大するかといえば、結局のところ巨視的に観測しているので情報が失われている、すなわち不確実性が増大しているから。ここに則れば、エントロピーが増大するのは観測者すなわち人間が微視的に全ての粒子の運動を追うのが不可能だからであって、つまり時間(の方向)とは人間の認知の有限性から生まれているのでは?という言説だ。これはとても面白くて、思考実験としてもし仮に全知全能の神がいるとすれば、微視的な運動や状態を全てトレースすることができるから失われる情報はなく、エントロピーは増大せず、翻って時間の方向が存在しない、ということが有り得るかもしれない。実際のところはそういった全能性を持つ観測者が(人間の知り得る限りでは)存在しないので思考実験に留まるが、好奇心と想像が膨らむ話であることに違いない。
  • 僕自身はもっとこうした哲学的な議論にはやくから興味が持てていたら違う人生観が醸成されただろうな、と思って後悔することもたまにあるのだけれど、そういう話をしたら結局誰しも哲学的な議論に最初から興味があるわけではなく、人生のある一点で突然興味が湧いたり、理解が進むのだ、という話を聞いた。それは確かにそうで、僕自身も三浦は5年前に読んだときは全くわからなかったのに、2ヶ月前に読んだときにはその鮮やかな世界の描写に圧倒された。人生というのはこうした経験の蓄積と、蓄積から生まれる新たな知識・理解・共感の連続なのだな、と思い知らされる体験だったし、そう思えば人生長しと言えども全く不足はない。時間を経れば経るほど学びの貯金は複利で効いてくるはずだ。
  • また1ヶ月ぶりにランニングに出かけてきた。前回は15km過ぎたあたりで全く脚が動かなくなった反省を踏まえて、今日は控えめに10kmで終わらせた。神田、人形町、森下、両国、浅草を一周して帰ってきた。満足度の高い休日だ。

2021/02/05 (Fri.)

  • この2日で論文締切、プロポーザル締切、面接2件と、本当に怒涛のイベント目白押しだった。自分の生きるスピードを無視してまわりの世界は勝手に進んでいく。
  • あいも変わらず面接では好きなことを勝手に喋っている。ここまで自分の本音を言っているので、あとはもうマッチングの問題だ。どちらに転んだとしても別に悔いはない。
  • とはいえ現状3箇所、おそらく4箇所目も出すけれど、この数で大丈夫だろうか。なんとかなるか。近視眼的に応募数を減らしてあまり企業等比較をしないのはよくないとは思いつつ、できるだけこちらにリソースを割きたくないというのも本音。現状それなりに多様性に富んだ応募先で、自分の中では納得感があるので、このままでいこうかな。

2021/02/04 (Thu.)

  • 1ヶ月かけて大澤「社会学史」を読み終えた。非常に難解な内容ではあったけど、社会学に対する解像度が顕著に上がった実感がある。特にウェーバー以降の時代の人文系学問はほとんど知らず、これは第一歩として良い勉強になった。マルクス思想まわりは去年何冊か読んでいた本の良い復習になったし、他の部分に対しても観念論・唯物論・形而上学的見方と照らし合わせてふと物を考えたりする癖が少しついていて、この意味で物の見方の解像度が上がっていると思う。この本は他の本への良いポインタでもあって、積読が大変に増えてしまったのだけれど、まずは手元に置いてある本からどんどん読んでいくのが先決だ。
  • AISTATSのカメラレディを締切に3週間先立って仕上げて共著者チェックに回した。自分で思っていたよりもきちんと読み返して、想定外の誤植を直したり、読みにくい部分を直せたので、とても満足。いろいろな作業を着実にこなしていて気分上々。

2021/02/03 (Wed.)

2021/02/02 (Tue.)

  • 先生や分野外の友人から非常に有益なフィードバックをいただいて、リサーチプロポーザルを推敲した。締切は明後日だけどとりあえずこれで応募。良いフィードバックをいただけたのもあって、自分の中でも懇親の出来だと思う!倍率が30倍超えなのでそうそう簡単に通してくれるとは思わないけれど、それでも良い線はいけるのではないだろうか。これで就活エントリー3箇所目。2月に入って狙ってた別のアカデミックポジションの公募も始まったので、4箇所目としてそこの応募も進めていきたい。
  • 後輩の修論発表を聞きながら作業していた。FPTアルゴリズムが面白い。確か東工大渡辺先生のWeb記事にもあったと思うのだけれど、計算量理論は決してNPに対して悲観的なのではなく、NPの中の階層構造を明らかにして計算可能性の解像度をもっと上げていく肯定的な営みであると。たぶんその言葉を見かけてからか、FPTの考え方がとても面白く感じるようになった。最近は計算論的学習理論の論文読み会もやっていて、その元々の動機は学習不可能性の証明にあったのだけれど、こうやって解像度が上がっていけばもっと意味のある議論ができると思う。

2021/02/01 (Mon.)

  • 2月になった。なんだか年が明けてからそれほど時間が経ったように思えないのにあっという間だな。
  • 大澤「社会学史」を1ヶ月近く読み続けて、あと少しで終わりそう。かなり20世紀も後半の話になってきて、構造主義や機能主義など難解だけど面白いアイデアが次々に出てくる。週末に読んでいて一番ワクワクしたのは、ルーマンの「複雑性縮減」による社会システムの進化の説明。前提としてシステムとは環境に比べて複雑性(エントロピーと言い換えてよいと思う)が小さく、すなわち可能な選択肢が減っている状態。であるとして、社会システムの進化は機能が多様に分化して扱える可能性のある情報が増えている様相と考えることができ、そのときに逆説的に複雑性が増大している。つまり、進化とシステムは互いに相反する概念なのではないか?ということ。この疑問に対して本文では答えに触れられていなかったけれど、この疑問自体はたとえば知能や思考についても同じ現象が見て取れ得るわけで、心に留めておくのに十分価値のある観点だな、と感じた。