京都大学白眉プロジェクトに採択されるまで


先日、京大白眉プロジェクト第12期の内定者としてありがたいことに採択されることになった。 これが自分にとってのはじめてのアカデミア就活であり、自分自身も勝手がわからず行きあたりばったりだったのもあるし、こういう公募への応募体験談というのもなかなか公開されないだろうということで、ざっくりとまとめておくことにする。 この記事がアカデミア就活を考えている若手研究者の誰かの参考になれば幸いである。

私について

東京大学で機械学習の研究をしている大学院生(2021年9月時点で博士3年)である。 詳しい情報は調べれば出てくるので、ここでは白眉応募時点(2021年2月)のスペックをまとめておく。

  • 論文誌2本(主著1本、共著1本)
  • 国際学会プロシーディング7本(主著4本、共著3本)1
  • 日本学術振興会特別研究員(DC1)
  • JST AIPチャレンジプログラム、JST ACT-Iを過去に獲得
  • 2022年3月博士取得見込み
  • 26歳

近隣分野の同世代と比較すると業績は少ない方ではないと思うが、目を見張るほど多いわけではないと思う。 情報分野では1年に1本程度主著の研究をトップ国際学会で発表していればある程度の実力を備えた研究者と考えて概ね差し支えないと思うので、一応その層に属していると認識しているが、年に3本くらい発表する猛者もいたりする。 ACT-I2研究者だったのは評価ポイントかもしれないが、情報分野であれば昨今は大学院生を含めた若手研究者向けグラントは官民問わず充実しつつあるので、それほど物珍しいわけではないと思う。 他分野から見たときには目を引くのかもしれない。

京大白眉プロジェクトとは

これを読んでいるあなたはおそらく既にご存知であろうが、簡単にまとめておく。 京都大学白眉プロジェクトとは、人文・自然科学など分野を問わない若手研究者を最長5年の有期雇用教員として採用し、研究活動に専念する環境を提供しているプロジェクトである。 受け入れに際しては京都大学のいずれかの研究科に属する研究室に所属することになるが、基本的には独立した研究者としてみなされ、また教育業務や研究科教務に関わらなくてよいことが保証されている3。 また、各年100〜400万円程度の研究費を獲得することができる。 イメージとしては、実質的に上長のいない任期5年の自由ポスドク、と考えれば大差ないのではないだろうか。 ちょうど昨日日経新聞の記事4で紹介されていたように、若手の研究環境としては申し分ないため、例年倍率が非常に高いことがネックである。 昨年11期までは10人の枠のところが約25〜40倍の高倍率になっていたようで、今年12期は枠が15人に増えた関係もあって最終的には倍率20倍だったようだ。

自分が応募しようと思った決め手は、勿論比較的長い任期であったり自由な環境というのもあるが、ダイバーシティに溢れる研究者とのネットワーキングが行える点だった。 実際、過去の採択者を見るとチベット仏教や国際政治学のような人文系学問から環境・生態学、純粋数学まで、非常に多様な背景を持つ研究者が一同に会している。 白眉では隔週で研究者がセミナーを行ったり、また年数回合宿のようなイベントも行っており、研究者間の交流の機会が図られている。 最近はいろいろ思うことがあり、純粋に数理工学的な機械学習研究には息苦しさのようなものを感じつつあり、他の方面へのアプローチを探りつつあったので、最初に白眉のことを知ったときはとても魅力的に映った。

タイムライン

2021年の公式スケジュールはここで発表されている。 自分の場合は

  • 2020年12月末: 大学院の友人と就活に関して雑談しているときに白眉プロジェクトの存在を知り、応募することを決める
  • 2021年1月4日: 知り合いの京大の先生に受け入れをお願いする
  • 1月26日: 選考書類を書き始める
  • 1月29日: 選考書類を埋めて友人と相談する
  • 2月3日: 一次選考書類提出
  • 6月27日: 二次面接

という流れで、応募の締切が論文の投稿時期と重なっていたり、海外研究者からの問い合わせに返答したりしていたのもあって非常にドタバタしていた記憶がある。 メモを見返すと、書類を埋めたのは賞味3日ほどだったようだ。

学振に応募する場合は、例えば卒論やM1の研究で確実に成果がでるように所謂「業績ハック」を行う戦略も考えられる5が、自分が白眉に応募するのを決めたのは締切の1ヶ月前だったため、そういうことをする時間的余裕はなかった。 アカポスに多少の興味はあったが、興味のない論文を書くのは苦痛でしかないので、博士の間もあまり打算的に業績を増やすことは考えていなかった。

一次選考

まず、応募にあたって必須ではないのだが受け入れ先教員を決定して承諾を得ることが推奨されている。 自分の場合はD2の頃からアカデミック就活も視野に入れていて京大の知り合いの先生に薄く相談していたのもあったので、白眉の受け入れをお願いしたときも快諾していただけた。

応募書類は以下のような構成になっている。

  • 採用後に取り組む研究について(5ページ以内)
  • 研究業績について(4ページ以内)
  • 応募の動機と白眉研究者としての抱負について(2ページ以内)

「採用後に取り組む研究について」の欄は、書き方はほとんど学振と同じだった。 自分は学振の申請書を書いたときの経験や、大上さんの資料を参考にしながら埋めた。 自分の研究提案内容は「仕様検証可能な機械学習」と題して、おおまかにはユーザーが機械学習予測に対して要請する性質を評価指標の形で書き下してそれを直接最適化することを提案している。 このあたりのアイデアはD2の頃から温めていた内容で、自分のこれまでの研究の延長線上として自然に現れるものなので、実現可能性のアピールはそれなりに意識した。 メタ的な話としては、下線部だけを辿っていけば概ね意味が取れるように強調したり、1ページに最低1つ程度図を入れるなどした。

(申請書のイメージ)

「研究業績について」の欄は論文や招待講演、受賞歴などの業績を書き連ねることになるが、自分の場合はどんなに頑張って膨らませても最大4ページのうち2ページにしかならなかったので諦めた。

「応募の動機と白眉研究者としての抱負について」の欄は申請書によくありがちな自己アピール欄であるが、白眉ではここがそれなりに重点的に見られている印象を受ける。 主に白眉への応募理由、理想の研究者像、そして世界の諸課題の解決についての貢献の記述が求められている。 自分の場合は、

  • 白眉への応募理由: なぜ博士を卒業した今、白眉のような自由な環境での研究活動が自分にとって必要か。直近の白眉での研究活動が自分の中長期的なキャリアに役立てられそうか。長期的には自分はどのようなゴールを目指しているのか。
  • 理想の研究者像: 分野横断的な視野を持ち、市民とのコミュニケーションを絶やさず、実社会に根ざした研究を追求する研究者
  • 世界の諸課題の解決: 情報の氾濫の防止・一般市民の行動変容

といった内容をおおまかに書いた。 世界の諸課題に関しては、申請書に規定欄があったので、それを見てから半ば強引に捻り出した内容に近いが、それ以外の前半部分に関しては、ここ2年くらいの間自分の中でよく考えていたことをそのまま書いたので、素直な自分の考えは伝えられたのではないかと思っている。

昨年からコロナ禍になって人と会う機会がめっきり減ってしまって、代わりに本をよく読むようになった。 20代前半の頃までは人文系や哲学にほとんど興味を持つことが出来なくて、物理学・数理工学を始めとした数学的法則で世界をモデリングすることに大きな興味を持っていた。 しかし、大学院で研究に数年間携わっているうちに、いくら自然科学といえどその根底には人間の視点を通した自然現象の観察・モデリング・理解があり、完全な客観の存在に疑問を持つようになってきた67。 そうした経緯もあって、統計的・法則的でない、普遍性を追求しないアプローチというものが気になり、哲学的な議論に興味を持ち始めた。 ともかく色々思うところはあるのだが、最終的には従来型でないアプローチで機械学習および関連分野の研究を推し進めて、人間自身の理解の一助になることを目指してみたい、と最近は考えるようになってきた。

同時に、自分は大学院の間を通して、それなりにアウトリーチ活動に従事している8(つもりだ)。 これに関しても自分は色々思うところがあって、例えば純粋な学問研究はどうしたって経済的な見返りに還元することは難しいのだからせめてエンタメ的な形で還元する責任がある、とか、人間社会が持続的に科学技術をもってして発展するためには学問の価値に対してコンセンサスを持つことが肝要であり、そのためには草の根の教育活動が欠かせないのだ、とか、悩む日々が続いている。 このあたりに関しては学問と社会構造の切っても切り離せない関係があって、語り尽くせないほど色々な思いがあったりする。 この辺に関して自分が考えていることを申請書に書いたりした。 (もっと簡潔に書いた。2ページしかないから)

正直、白眉に応募するような若手研究者と比すれば自分の業績は全く目立たない(当然大学院生だけでなく助教経験者だって同じ土俵に立ってくるのだから)ので、この最後の欄で書いた内容が審査員の目を引いたのが、書類選考通過の主な理由だったのではないかと考えている。

書き上げた応募書類は、一応分野外の人間にもある程度伝わるかどうかを確認するために、大学院の同期(農学系のIくんと材料情報科学系のSくん)に読んで赤入れをしてもらった。

二次選考

書類選考の倍率は知らなかったが、そこそこ全力を持って書類を書き上げた手応えはあったので、書類選考は通るのではないかと思っていた。 面接会場に行ったときに会場規模を確認したところ、おそらく書類選考の段階で倍率4〜5倍くらいまで絞られていたのではないかと推測する。 書類選考通過後から面接にかけてはそれほど多くの準備はない。 A4一枚で、一次選考時の書類の内容と、その他のアピールポイントを簡潔にまとめたものを提出する。

面接は4会場に分かれており、並列で行われていた。 自分が入った部屋には6名ほどの審査員の先生方がいらっしゃって、面接時間は30分だった。 大まかにわけると、前半で自身の研究提案の内容の説明、後半では審査員の先生からの補足質問に加えて、研究提案以外の人物像などに関する質問がなされた。 タイムキープはこちらがわに委ねられていた。 持ち込み可能資料は紙媒体で、PCを用いたプレゼンの形式ではなく、研究説明も含めて全て口頭で行わなければならない。

自分は正直面接の準備がかなり甘く、当初は「おそらく事前提出資料に基づいたQ&A形式だろうから、聞かれた質問にだけしっかり答えられるようどっしり構えておこう」くらいの心持ちだったため、入室して最初に「それではあなたの研究提案と、その独創性について説明してください」とまず言われたときは非常に焦った9。 そもそも審査員の先生方がどのようなバックグラウンドなのかもわからないし10、専門用語を避けつつ平易な言い回しで言おうと心がけるあまり、つい内容のない説明を繰り返すに終始してしまっていた。 あまつさえタイムキープも出来ておらず、審査員の先生に「研究提案はわかったのだけど、そろそろ独創性の話に移ってくれないか」と催促されるにまで至る。 かなり焦っていたのでどれくらいの時間が経ったのか、この時点ではさっぱりわかっていなかった。 おそらく研究提案の説明に関しては落第点もいいところだったのではないだろうか。

幸いその後の質疑で、とある先生に「事前提出資料に『専門外の科学哲学や歴史にも興味がある』と書いてありますが、これについて少し詳しく話してくれませんか」という助け舟を出していただいた。 ここからは多少マシな受け答えをしていた記憶があって、自分が当座の研究だけでなく、一応研究が社会構造の中でどのように位置づけられているか、位置づけるべきかに興味があって、そのために哲学や歴史をかじっている、といった旨はうまく伝わったように思う。 また他にも、申請書類に書いていた

… 社会問題の解決には市⺠の意識を変え行動変容を起こすことが必要可欠である。提案者は一人の科学者として、ボトムアップ型とトップダウン型のアプローチが可能であると考える。ボトムアップ型のアプローチは、教育や対話、サイエンスコミュニケーションを通した、市⺠個人レベルでの意識変化を引き起こす方法である。 … 一方でトップダウン型のアプローチは、市⺠の行動を誘導するような社会システムのインセンティブデザインを考案する方法である。 …

あたりの内容も面白がっていただけたようで、「あなたはトップダウン型のアプローチは現代社会で受け入れられると考えますか」といった質問を受けたりした。 これに関しては私自身、申請書を書いていた2月時点からも考えは色々変わっていて11、質問をいただいた先生と大いに盛り上がったりした。

いずれにしても面接の準備不足だったり、タイムキープが全く出来ていなかったりなど、面接全体を通した心象は決して良くはなかったと思う。 面接が終わった時点では結果については全く心許がなく、「まあ高倍率だし落ちても仕方ないか」くらいで考えていたので、内定通知をいただいたときは驚いてメールを読み返すほどだった。

まとめ

昨今のアカデミアを取り巻く厳しい環境の中、まずはこうして一つのポジションに採用していただけたことに感謝したい。 自分以外にも間違いなく並々ならぬ想いを持って白眉への応募に臨んだ若手研究者たちはいるはずであり、その中で選んでいただいたことについては大きな責任を感じている。 私としては機械学習や情報科学分野のみならず、幅広い分野の研究者と交流を深めながら学術を市民の共有財産として還元していくことに努めたいし、排他的な姿勢に陥りがちな専門的研究態度をコミュニティ全体として襟を正しながら改めていきたいと思う。 私自身はたまたま情報科学の研究をやっているけれども、どの学問分野も、誰が持つ好奇心も、等しくかけがえのないものだと信じているからこそ、学問に対して包容的な態度で臨みたい。

申請書を不特定多数に対して公開する予定は今のところないが、もし仮に自分の申請書を参考にしたい場合は、直接連絡をお願いしたい。

最後に、本選考プロセスを通してお世話になった全ての人たち、とりわけ受け入れ先のY先生と、一緒に就活の相談に乗ってくれた大学院同期のIくん、Sくんに感謝したいと思う。 ありがとうございました。


  1. 機械学習分野もとい多くの情報科学分野では、速報性の面から論文誌よりも国際学会のプロシーディングが業績として重要視される傾向がある。実際、機械学習分野の著名な学会の一つであるICLR(International Conference on Learning Representations)のh5-indexはプロナスより高かったりする(Google Scholar調べ; 2021年9月時点)。これで何が言えるわけではないが。 ↩︎

  2. JSTの情報分野の競争的資金で、個人研究者向けの1年半のプログラム。規模の小さい「さきがけ」と考えれば概ね間違いはない。大学院生でも採択される点が「さきがけ」との大きな差異であり、実際自分の同期にも10人弱の大学院生がいた。 ↩︎

  3. ただしトレーニングとして教育に関わりたい場合は当然認められる。 ↩︎

  4. 余談だが、サムネイルにもなっている白眉2期の沙川先生(現東京大学)は、私が東大に入学した年に受講していた田崎現代物理学にオブザーバー参加しており、この年は田崎先生が沙川先生の博士時代の研究(一般化Jarzynski等式)に関する講義を行った。この講義は高校を卒業したばかりの自分には衝撃の大きかった講義であり、また最近まで沙川先生が白眉研究者だったことを知らなかったため、少し不思議な巡り合わせを感じている。 ↩︎

  5. 2021年度から学振の申請書様式は大幅に変更され、業績重視の姿勢から大きく脱却しようとしている。こと学振に関していえば、博士課程の学生をできるだけ広く薄く支援することが望ましいように思うので、この方向性は間違っていないのではないか。 ↩︎

  6. このような考え方は例えばピアソンに見られる。ピアソンは「科学の文法」の中で、所詮科学の記述方法は人間が定めているものだから自然科学は人間なしには有り得ない、という観念論的な見方を展開した。 ↩︎

  7. こういう考えは持つものの、一応自分は唯物論者のつもりではいる。 ↩︎

  8. 例えば「10分で伝えます!東大研究最前線」という、東大の学園祭でその名の通り10分で研究紹介を行う企画に数年携わっている。色々思うところはあるが、一番はやはり聴衆の皆さんに楽しんでいただいている様子を見られるのが嬉しいからこそ続けられている。 ↩︎

  9. 普通に考えれば、面接の最初は自己紹介とそれに付随する提案内容の説明が相場と決まっている。いかに私が面接の準備を怠っていたかが露呈している。 ↩︎

  10. 会話の流れで審査員の先生のうちお一方が法学者であることはわかったが、残りの5名についてはわからなかった。 ↩︎

  11. 面接直前に読んだJamie Bartlett『操られる民主主義』に大きな影響を受けた。数年前に話題になっていた、2016年米国大統領線の舞台裏で動いていたケンブリッジ・アナリティカによるマイクロターゲッティングとポピュリズムの台頭に関する批判本だ。 ↩︎